この記事を書いた人
美容師が独立して美容室を経営する際、失敗の理由は資金不足に集約されます。極端な話、道楽で美容室を開くだけならお客様がひとりも来なくても構いませんが、現実にはそうはいきませんよね。
- 資金不足で経営が難しい
- 集客がうまくいかない
- 経営の知識が不足している
理想的にはお客様が順調に訪れて売上が安定してほしいですが、実際には多くの障害があります。たとえばお客様が少ない時期でも、家賃、人件費、材料費などの固定費は支払わなければなりません。
今回は失敗の直接的な理由と、その背後にある原因に焦点を絞って解説していきます。合わせて対策も述べるので、ぜひ最後までお読みください。
- 独立時に陥りやすい失敗の原因
- 失敗を避けるための具体的な対策
- 成功するための経営のポイント
失敗の理由⓵開業前の資金不足


そもそも開業前につまずいてしまい、見ないところで失敗している美容師は数多くいます。資金計画の甘さと言ってしまえばそれまでですが、中には自分でコントロールできない外部要因によって資金がショートすることも。
融資却下・減額融資による予算不足
独立開業を目指す多くの美容師は、資金調達のために金融機関からの融資を頼りにします。しかし、実際には融資が却下されたり、計画していた金額より少ない額の融資しか受けられないケースがあります。
これが起こると、店舗のリフォームや初期設備投資に必要な予算が不足し、経営が最初からハードモードに。たとえば、インテリアや美容器具の購入、広告費などに十分な資金がなければ、質の高いサービスの提供や効果的な宣伝が難しくなります。
開業が遅れて生活資金が枯渇する
美容室の開業には通常、計画段階から実際に店をオープンするまでに数か月から一年以上かかります。開業が遅れると、その数ヶ月で入ってくるはずだったお金がゼロになります。
工事が遅れる、資材や人が揃わないなどの理由で開業が遅れることは珍しいことではありません。
また、開業までは収入が途絶えるため、生活資金が徐々に減っていきます。開業後すぐに売上が立たない場合、生活費と店舗運営費の両方を賄うことが困難になり、財政的に追い詰められるでしょう。
失敗の理由②開業後の運転資金不足


失敗の主たる理由は開業後の運転資金不足。「店舗の場所も借りた。人も揃えた。いざ開店!」のはずが、気付けば赤字で経営を続けられなくなるパターンです。
お客様が来なくて売上が立たない
新規開業した美容室では、最初の数ヶ月間は集客に苦労することが多いです。またリピーターもいないため売上が安定せず、運転資金が圧迫されます。特に、立地条件や競合店の存在、集客戦略の不足が原因になります。
たとえば良い立地に店を構えていても、周囲に多くの競合店がある場合、新規のお客様はなかなか獲得できないでしょう。また、広告や宣伝が不十分であれば、これまた集客力の不足に追い打ちをかけます。
家賃が高すぎて支払いが追いつかない
美容室の立地は重要ですが、良い立地は家賃が高い傾向にあります。特に都心部や人通りの多い商業地域では、家賃のコストが大きな負担となることがあります。
初期の売上が予想より低い場合、高額な家賃を支払い続けることが難しくなります。家賃は固定費の大部分を占めるため、家賃が支払えなくなると、経営はすぐ危機に陥ります。
一般的に家賃は売上の10%程度が相場。「家賃は高いけどお客さんいっぱい来るはずだし…!」は危険です。
広告費が逆ザヤで赤字
集客を目的として広告に投資することは、新規開業した美容室が起こすべきアクションです。しかし、広告にかける費用とその効果を正確に見積もることは難しく、広告費用が売上を上回ってしまう「逆ザヤ」の状況に陥ることがあります。
たとえば高額なホットペッパービューティーの高額なプランを契約しても、それに見合うだけのお客様が来店しないかもしれません。
広告費が集客力を下回れば経費が売上を上回り、経営は赤字になります。どの集客サイトにいくら投資するかは、周囲の環境を見極めながら少しずつ最適解に近づく必要があります。
人件費・採用費用が高すぎて予算をオーバーする
一人美容室ではない場合、サロンの運営にはスタッフの雇用が不可欠です。しかし、人件費や採用にかかる費用は、運転資金の大きな部分を占めることがあります。特に優秀なスタッフを確保しようとすれば、人件費は高くなります。
また、新しいスタッフの採用やトレーニングには時間と費用がかかります。売上が立たない初期段階ではこれが大きな負担となるでしょう。
求人サイトなどを通して採用する場合、一人採用するために数十万円のコストがかかります。従業員はいつ辞めるかわかりません。常に新規採用の予算と時間は確保することが大切です。
失敗の理由③事業計画が楽観的過ぎる


美容室の独立開業において、現実的ではない楽観的な事業計画は失敗の大きな原因です。技術に自信のある美容師が理想的なシナリオを描いてしまうと、資金計画や集客予想の誤算を生むでしょう。
事業計画がプロダクトアウトで融資が下りない
「プロダクトアウト」とは、市場の需要よりも自分の提供したいサービスや商品に焦点を当てる考え方です。このアプローチで事業計画を立てると、市場の需要からかけ離れた計画を立ててしまいがちです。
「俺の技術ならお客様を満足させられる!」だけでは金融機関からの融資が得られにくくなります。金融機関は、市場の需要や競争状況を重視し、リスクが低い事業計画に融資を行います。
したがって、市場のニーズを無視したプロダクトアウトの計画は、資金調達の障害となる可能性が高いです。


開業するために融資と貯金を使い果たしている
多くの美容師は、夢の独立開業のために融資を受けると同時に、長年の貯金も投じます。しかし、開業資金に全てを注ぎ込むことはリスクが高く、万が一の事態に備える余裕がなくなります。
たとえば想定外の出費や初期の売上不足が生じた場合、追加資金を確保することは困難。収支が予想を下回った場合の運転資金を残さないと、想定外のリスクに対応できなくなります。
お客様が計画通り来る前提の店舗を借りている
楽観的な事業計画では、特定の売上目標を達成することを前提に店舗を選びがちです。たとえば良い立地の大きな店舗を借りたい方は、多くのお客様が訪れることを想定しているでしょう。
しかし、実際にはそのような結果にならないことも多いです。売上が予想に達しない場合、運転資金における家賃の割合はどんどん高まっていきます。
そうなれば既に当初の経営計画は破綻してきているといえるでしょう。
失敗の理由④集客力を見誤っている


独立した美容室の経営において、集客力の誤評価は予想外の売上不足に直結します。ありがちな集客力の見誤りを見ていきましょう。
お客様のターゲットが絞れていない
効果的な集客のためには、明確なターゲット層を定めることが重要です。しかし、多くの独立美容師は、幅広い顧客層をターゲットにしすぎる傾向があります。
ターゲットが広すぎると、逆にターゲットが誰もいない状態と同義になります。「絞り込みすぎかも…」と思うくらいペルソナを作ってターゲット策定をしてみましょう。
ターゲットにするお客様の具体的なイメージ。
ポイントは可能な限り具体的な人物像を作ること。
ペルソナを設定することで施策に一貫性が生まれる。
例)
- 25歳女性
- 居住地:蒲田
- 勤務先:五反田の保険代理店のOLさん
- 趣味:カフェ巡り、ランチ
- 髪が細く、傷みやすいことが悩み
- 髪の毛に疎いわけではないけど正しいケア方法を模索中
ターゲットを絞ることで演出するべきコンセプトがハッキリし、ブランディングも可能になります。


以前の店舗の集客力を自分の集客力だと思っている
過去に働いていたサロンでの成功体験を過信すると、自分自身の集客力を過大評価するリスクがあります。たとえば以前のサロンで多くのお客様を持っていたからといって、独立しても同じ結果が得られるとは限りません。
集客力は、以前のサロンのブランドや立地、その他のスタッフに支えられていた可能性があります。自分のスキルと経験だけで同様の成功を期待するのは現実的ではありません。
集客力は自分の実力だけで決まるものではありません。常に3C分析を行い、集客力を最大化する施策を考えましょう。
Customer(お客様)・Competitor(競合)・Company(自社)の頭文字をとった、経営環境を分析する考え方のこと。新規ビジネスを検討する際には3C分析が必須です。
適正な広告予算をかけていない
広告は新規顧客を獲得するための重要な手段ですが、その予算の設定には慎重な検討が必要。集客効率(ROI)を最大化する予算の設定は、集客施策で最も難しい判断のひとつです。
「Return On Investment」の略で、投資利益率ともいう。投資に対して得られる利益の指標。出店から採用、集客サイトへの課金まで、投資行為をする際には必ずROIを意識して計算しましょう。
広告予算が不適切だと、たとえば予算を抑えすぎて広告のリーチが不十分であったり、逆に高額な広告に投資しすぎて財政的な負担が増大したりします。
失敗の理由⑤人材難を理解していない


美容業界は慢性的な人材難にあります。採用は難しく、スタッフの定着にはさらなる課題が待ち構えています。
採用にかかる予算を軽視している
優秀なスタッフの採用と維持は、美容室経営の成功に不可欠です。しかし、採用には時間とコストがかかります。
優秀な人材を確保するためには、広告費、面接、トレーニングに相応の投資が必要です。採用エージェントなどに依頼する、求人媒体に掲載するなど採用方法は多様ですが、いずれにしても数十万円のお金がかかります。
採用予算を少なく見積もっている場合、お客様はいるのにスタッフがいなくて予約を受けられないという事態も考えられます。


離職者が出ない前提で資金計画をしている
スタッフの定着率は美容室経営における大きな課題です。美容師は専門職なので、転職先にはあまり困りません。したがって、離職者が出ないという前提で資金計画を立てるのは危険です。
美容業界の離職率は3年で50%前後と高く、新しいスタッフの継続的な採用とトレーニングが必要になることがあります。
このような状況に対応するためには、人件費やトレーニング費用などを含めた余裕のある資金計画が必要です。離職者が発生した場合の影響を考慮せずに計画を立てると、予期せぬタイミングで経済的なピンチに陥る可能性があります。
スタイリストが辞めた後の集客戦略がない
スタイリストは、一人いるだけでも100人から200名ほどのお客様を担当できますから美容室の集客力を大きく高めます。しかし、離職するリスクを考慮せずに事業計画を立てると、彼らが辞めた後の集客力が大幅に落ちます。
また辞めたスタイリストが、お客様を連れて行ってしまううことも。このような状況に備えるためには、他のスタッフの育成や、誰かが辞めたときにも打ち出せる集客戦略が必要です。
失敗の理由⑥経営の勉強が足りない


美容師としての技術は高くても、経営に関する知識やスキルが不足していると、独立開業は困難です。経営には、財務管理、マーケティング、人材管理など多岐にわたる知識が求められます。
貯金を作らずに全部投資に回している
ビジネスを拡大するために投資が必要なことは事実です。しかし、資金を大切に管理することは、美容室経営においてもっと重要です。
全ての資金を開業や設備投資に使ってしまうと、トラブルやスタッフの退職で経営は一気に難航します。予期せぬ出費や売上の変動に対応するためには、常に一定の貯蓄を保ちましょう。
既に自転車操業の場合、あらゆる出費を少しずつ減らせないか検討するべきです。顧客満足度や集客力に影響しない材料の購入価格から見直してみてはいかがでしょうか?


競合店がいる前提のマーケティングをしていない
競合他社の存在を考慮せずにマーケティング戦略を立てることは、独立開業において大きな失敗要因となります。市場調査を怠ると、競合他社のサービスや価格設定に対して適切な対策を講じることができません。
たとえば周辺に類似のサービスを提供する美容室が多い場合、独自の価値提案や差別化戦略を立てることが重要です。「以前はこのサービスがこの価格で売れていたから」ではなく、「今の環境ならいくらなら売れる」という発想が重要です。
戦略がなく、思い付きで行動している
経営においては戦略的な計画と実行が不可欠ですが、経営知識が不足していると短期的な思い付きで行動しがちです。
たとえば特定の広告に大きな予算を投じたり、流行に乗じたサービスを導入すること自体は間違っていません。しかし、そこに長期的な戦略がなければ、短期的な成功はあっても長期的な成長の支えになりません。
経営に関する勉強を怠ると、市場の変化や競合他社の動向に迅速かつ効果的に対応することが困難になり、ビジネスの持続可能性が損なわれます。
書籍を読む、セミナーに参加するなど、常にビジネスマインドを更新し続ける心構えが必要です。
まとめ
美容室の独立開業において、資金不足と集客力の見誤りが失敗の主要な原因です。開業前後の資金計画、適切な立地選定、効果的な広告戦略、人材管理、競合分析が重要です。
また、経営に必要な知識を習得し、計画的な経営を行うことが成功の鍵。リスクの検討に「考えすぎ」はありません。
自動車を運転するときは「かもしれない運転」を心がけようと言いますが、経営でも「AがだめならB、それもだめならC」と、かもしれない経営を心がけましょう。
よくある質問
美容室の立地選びで重要なポイントは何ですか?
美容室の立地選びでは、ターゲットの流れ、近隣の競合状況、家賃と経費のバランスが重要です。また、交通の便利さや駐車場の有無も、お客様の来店しやすさに影響します。地域の人口密度やターゲット層の生活スタイルを分析するところから始めましょう。
美容室開業に必要な初期投資の平均的な額はどのくらいですか?
初期投資額は立地、店舗の規模、内装のレベルによって大きく異なりますが、一人美容室なら500万円からでしょう。具体的な金額は、リフォーム費用、初期設備投資、開業時の広告費用などを含めて計算する必要があります。


新規開業時におすすめの広告戦略は何ですか?
新規開業時の広告戦略では、地域密着型のマーケティングが効果的です。地域のイベントへの参加、フライヤー配布、地元メディアへの広告掲載がおすすめです。集客サイトへの登録も忘れずに行いましょう。
美容室経営でスタッフのモチベーションを保つ方法は?
適切なキャリアアップと報酬体系の設定、定期的なフィードバックが重要です。また、チームワークを促進するための社内イベントや研修の実施も効果的です。スタッフが自分の仕事に価値を感じ、成長できる環境を提供することが重要です。モチベーションを保てないサロンからは美容師が流出します。


美容室経営でのリスク管理にはどのような方法がありますか?
リスク管理には、財務状況の定期的なレビュー、現金の動きの管理、緊急時の資金源の確保が含まれます。また、市場の動向を常に把握し、需要の変化に柔軟に対応することも重要です。さらに、保険への加入や法的な準備もリスクを軽減する手段となります。








